今年度、分析レベルでの変異に基づくイネ属植物の系統進化の解析のため、以下の実験を行った。材料はAゲノム種より栽培種2種29系統(O.sativa23系統、O.glaberrima6系統)、野生種2種30系統(O.perennis25系統、O.breviligulata5系統)、Aゲノム以外の種より野生種6種20系統(Cゲノム種O.officinalis3系統、CDゲノム種O.latifolia5系統、BCゲノム種O.minuta5系統、Eゲノム種O.australiensis4系統、Fゲノム種O.brachyantha1系統、未同定4倍体ゲノム種O.ridleyi1系統)の計79系統を用いた。これらよりDNAを抽出し、まず葉緑体ゲノム内で生じた種およびゲノム特異的欠失を検出するため、遺伝子をコードしていない領域20カ所についてPCR法による増幅をおこない、種間ゲノム間で比較した。その結果、Aゲノム種内ではほとんど変異がみられなかったが、異なったゲノム間では約半数の領域で欠失により生じた多型がみられた。また、単純反復配列領域において増幅突然変異が種およびゲノム間でどのように起こっているのかを調べるために、その領域を増幅するようにプライマーをデザインした。さらに増幅産物を放射性物質を使わずに検出するため、ポリアクリルアミド電気泳動法、銀染色法についての最適条件を調べ、実験手法の確立を行った。 来年度は、核ゲノム内で生じた欠失突然変異をRFLPマーカーを用いて調べ、単純反復配列領域の増幅突然変異を核・葉緑体の両ゲノムについて調べる計画である。さらに、これらから得られる結果をもとに、イネ属植物における系統進化ならびに栽培普通イネの栽培化について考察する予定である。
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