分子レベルでの変異に基づくイネ属植物の系統進化の解明のため、以下の実験を行った。材料はAゲノム種より栽培種2種29系統、野生種2種30系統、Aゲノム以外の種より野生種6種20系統(Cゲノム種3系統、CDゲノム種5系統、BCゲノム種5系統、Eゲノム種4系統、Fゲノム種1系統、未同定4倍体ゲノム種1系統)の計79系統を用いた。これらよりDNAを抽出し、まず葉緑体ゲノムにおける遺伝子間領域20カ所をPCR法により増幅した。Aゲノム種内では増幅断片長にほとんど変異がみられなかったが、イネ属植物内では約半数の領域で欠失により生じた多型がみられた。次に、核・葉緑体の両ゲノムの単純反復配列領域についてもPCR法により増幅を行った。核ゲノム由来の24領域と葉緑体ゲノム由来の10領域において検出された増幅断片長の多型の割合を比較したところ、核ゲノムにおける単純反復配列領域は非常に増幅突然変異に富むことが観察された。以上の結果より、イネ属植物における系統関係について以下のことが明らかになった。イネ属植物内では、E、Fゲノム種が他のものと比較して大きく分化しており、A、BC、C、CDゲノム種はそれぞれ同程度に分化しクラスターを形成している。Aゲノム種内においては、野生種のO.perennisのオセアニア、アフリカおよびアメリカ型が大きく分化しており、栽培種のO.sativaはO.perennisのアジア型と、もう1つの栽培種であるO.glaberrimaは野生種のO.breviligulataとグループを作ることが明らかになった。これは、栽培種のO.sativaとO.glaberrimaの祖先野生種はそれぞれO.perennisのアジア型とO.breviligulataであることを示唆するものであった。
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