本研究は、口も肛門も消化管も持たない代わりに、体内共生微生物に栄養依存している特異な深海生物(ハオリムシ)の体内共生微生物相の解析、特に、ハオリムシの体内共生微生物は単一種か複数種かの解析を研究の目的としている。研究に用いたハオリムシは相模湾初島沖海底のメタン湧水帯から採取した。共生微生物が存在するのはハオリムシの栄養体である。栄養体に内容物を雑菌混入がないよう注意深く取り出した。ここから全DNAを抽出し、PCR法にて最近の16S rRNA遺伝子を増幅後、ベクターに組み込んでクローンライブラリーをつくった。このライブラリーはハオリムシの栄養体内細菌相を反映している。本研究では今までのところ36クローンを得、うち14クローンについて部分シーケンス(約400bp)およびデータベース解析を行った。その結果、14クローンのうち5クローンがKlebsiela属(全体の35%)、3クローンがAlteromonas属(21%)、3クローンがPseudoalteromonas属(21%)、2クローンがErythrobacter属(14%)、1クローンがShigella属(7%)の細菌と最も高い相同性を示した。Klebsiella属菌やShigella属は腸内細菌であり、消化管のないハオリムシ体内のこれらの存在が示唆されたのは興味深い。また、高い相同性が見られたAlteromonas属菌やPseudoalteromonas属菌、Erythrobacter属菌は熱水噴出域やメタン湧水域から報告されたものである。ハオリムシの初期幼生(トロコフォア)段階ではまだ口・消化管・肛門が残っていることを考えると、ハオリムシの体内微生物相が周囲環境の影響を受けていることも十分に考えられる。これにより、ハオリムシ体内には複数種の細菌が存在することが分かり、共生的な微生物相互作用を行っている可能性が示唆された。
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