ハオリムシ(有鬚動物)は、後生動物にも関わらず口・腸・肛門といった消化器官を欠き、自ら食べることを放棄した生物である。その代わり、トロフォソーム(栄養体)という組織にイオウ酸化細菌を共生させている。本研究ではハオリムシの体内細菌(共生細菌かどうかは調査中)の多様性について遺伝子からの解析を行った。ハオリムシの採取は潜水調査船「しんかい2000」を用いて行った。相模湾の初島沖メタン湧水域(水深1170m)に生息するハオリムシ(Lamellibrachia sp.)とその周辺の堆積物を採取した。ハオリムシのトロフォソーム内容物と堆積物よりそれぞれDNAを抽出し、PCRにより16S rDNAクローン・ライブラリー(>110株)を作成し、塩基配列解析を行った。この結果、ハオリムシ体内の微生物相からRhodobacter (硫黄酸化細菌)やEnterobacter(腸内細菌科に属しメタン酸化細菌に近縁)といった化学合成細菌を含む複数種(>6種)の存在が確認された。これらの細菌は、ハオリムシのトロフォソーム内でmicrobial consortiumを構成し、メタンや硫化水素といった数種類の化学物質を利用した代謝経路により、宿主ハオリムシに有機栄養を供給していると考えられる。また、ハオリムシ体内細菌相と周辺の堆積物中の細菌相には、類似性のあることもわかった。今まで、ハオリムシの精子や卵から共生細菌が見つかっていないことや、ハオリムシは浮遊生活をおくる幼生初期段階には口や腸を一時的に持つことなどから、共生細菌は周囲の環境中から体内に取り込まれた可能性がある。しかし、今回シーケンスによって得られたハオリムシ体内細菌相と堆積物中の細菌相では構成種の存在比率が異なることから、比較的共生しやすい細菌とそうでない細菌がいると思われる。
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