本研究では、ミジンワダチガイ科(軟体動物腹足類)の軟体部の形質を重視した系統・分類学的な検討を進めている。本年度は主に分類学的研究材料の収集と、さまざまな組織学的な手法の確立を目指した。 まず、材料の入手のためにミジンワダチガイ類の種類が多い沖縄(7月に石垣島と9月に財団法人阿嘉島臨海実験所)と異旋類一般の比較試料を得るために伊豆半島下田(6月と3月に筑波大学付属臨海実験実験所)においてサンプリングを行った。採集した材料は実験所の研究室で組織切片、顕微鏡下解剖、及び貝殻を中心とした保存のそれぞれの用途に応じて固定処理した。主に貝殻と歯舌の形態学的検討の結果、日本周辺の北西太平洋からこのグループとして2属7種類を確認した。そのうち5種は現在のところ未記載種と考えられる。 組織学的な手法の確立としては、第一に微小な動物の内部形態の検討を行う場合に不可欠なエポン樹脂包埋と超薄切片作製機(ウルトラミクロトーム)による準超薄切片法を習得した。この方法を微小軟体動物の形態学的研究に利用しているのは、現在のところ世界中でドイツZooologische Staatssammlung MuchenのG.Haszprunar教授だけであるため、12月に同教授の研究室に2週間滞在して技法を習得するとともに、50個体ほどの試料の準超薄切片を作製した。一方、組織化学的な手法については、厚切り切片およびホールマウントでの塗銀染色(Bodian-石川変法)と、血管内に高い濃度で存在する過酸化酵素のジアミノベンチジンへの反応を利用した循環器系分別染色のそれぞれ予備的な実験を行ったが、現在のところいずれもnon-specificな反応を抑えられず、満足できる結果が得られていない。しかし、固定や反応の条件を変えて実験を繰り返せば良好な結果が得られる可能性が高く現在も実験を継続中である。
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