本研究では、ミジンワダチガイ科(軟体動物腹足類)の軟体部の形質を重視した系統・分類学的な検討を進めている。本年度は昨年度に引き続き、分類学的研究材料の収集とさまざまな組織学的な手法による形態学的検討を行った。まず、材料の入手のために沖縄(琉球大学熱帯研究センター瀬底実験所)においてサンプリングを行い、仙台市の斎藤報恩会自然史博物館をはじめとした日本各地の博物館に保存されている標本の調査を行った。また、海外の自然史博物館に保管されている日本および西太平洋産の標本も借用・検討したほか、日本以外の西太平洋域として中国・海南島、インドネシア・ロンボク島、フィリピン・マクタン島などから報告者自身などによって採集された液浸標本類についても比較検討を行った。液浸標本の一部は樹脂包埋の後、ウルトラミクロトームを使用して準超薄切片として、内部形態の詳しい検討に用い、他の一部の標本は殻を除去した後、軟体部の外部形態や歯舌の構造の検討に使用した。 主に貝殻と歯舌の形態学的検討の結果、日本周辺の北西太平洋からこのグループとして2属7種類を確認した。西太平洋域のこのグループの文献を丹念に調査した結果、このうち5種は未記載種と考えられ、新種記載の準備をしている。一方、これらの種類の軟体部の形態を詳しく比較検討した結果、Omalogyra属とAmmonicera属は、貝殻の形態で著しく類似しているのにもかかわらず、系統的に大きく隔たっており、少なくとも科以上の分類単位で区別される可能性があることが明らかとなった。
|