日本産海岸生アナイボゴケ属地衣類の分類学的実体を明らかにするため、東北地方・北陸地方において野外調査を行い、得られた標本について分類学的検討を行った。調査は岩礁海岸の潮間帯から飛沫帯を中心に行い、加えて近隣の内陸についても比較のため調査した。 研究の結果、日本産海岸生アナイボゴケ属として、新種と日本初記録種を含む12種を認めた。分類形質として、地衣体における黒斑の有無・形、湿時ゼラチン化の有無、割れ目の有無、被子器の形・直径、involucrellumの形、子嚢胞子の大きさ・形が重要である従来の考えを追認した。一方、地衣体の色彩については、生態的変異が大きいため、従来考えられていたよりも慎重な評価が必要という結論に達した。分類形質として周糸が重要であることが新たに明らかになった。また、従来本属では知られていなかった、地衣体表面に広がるタイプの粉子器を確認した。これらの結果は論文として準備中である。 海岸生アナイボゴケ属と同所的に生育する地衣類の中に、分類学的ないし地理学的に興味深い地衣類数種を確認し、論文として報告した。岩手・宮城両県の海岸の岩上において発見した、アナイボゴケ科のThelidium pacificum Haradaを本属では唯一の海岸生地衣類として新種記載した。宮城県の海岸からThelene11aceaeのThelenella luridella(Nyl.)Mayrh.を日本で初めて記録した。従来国内では御岳からの100年以上も前の報告が唯一であったスミイボゴケ科のDiploicia canescens(Dicks.)A.Massal.を、宮城県と千葉県の海岸において発見し、生態・形態・化学成分を記載した。岩手県内の海岸近くの河川岩上に生育していたPyrenocollema japonicum Haradaを新種記載した。
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