新世界ザルであるコモンマーモセットとヨザルは従来の仮説と異なり複数の赤緑視物質遺伝子をもつことが前年度に示唆された。そこでこのことを検証するために各々のオス個体よりゲノムライブラリーを作成し赤緑視物質遺伝子の単離を試みた。そしてこれら2種において実際に複数の異なる赤緑視物質遺伝子の単離に成功した。コモンマーモセット赤緑視物質遺伝子にはp561、p556、p543の3表現型が知られているが、単離された遺伝子は塩基配列からp561とp543をコードしていることがわかった。コモンマーモセット計30個体に対するサザンハイブリダイゼーションからp556に特有のバンディングパターンを推定することを得たため、それを示す個体の網膜より赤緑視物質遺伝子cDNAを単離し、塩基配列からそれがp556であることを確認した。さらに視物質再構成実験によりこれらの遺伝子産物の吸光特性も予想される表現型と一致することを確認した。これらによりオスに2種類の表現型に対応する遺伝子を持つ個体がいることが明らかとなった。FISH(fluorescent in situ hybridization)分析の結果、コモンマーモセットにおいてもヨザルにおいても赤緑視物質遺伝子はX染色体長腕端に位置し、他の染色体上には存在しないことを明らかにした。しかしながらコモンマーモセットの家系を用いて三型の遺伝様式の解析を行った結果、オスにおける赤緑視物質遺伝子の複数性は二卵性双生児胚間の血液交換によるものであり、複数の遺伝子座位が存在するわけではないことが明らかになった。一方、ヨザルにおいては5種類の赤緑視物質遺伝子が単離されたが、それらのうち4遺伝子は終止コドンにより翻訳領域が中断されており、機能しているのは1種類のみと考えられた。これらの結果は従来の新世界霊長類色覚遺伝子に関するX染色体性1座位3対立遺伝子仮説にゲノム解析学的根拠を与えるものであった。
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