賜骨耳状面表面の形質による年齢推定の方法を確立するため、耳状面表面で、年齢をよく表す形質を見つけるための研究を行った。観察した資料は近代日本人骨格標本(東京慈恵会医科大学、解剖学教室所蔵)で、生年月日と死亡年月日が記録されている個体、男性73体、女性34体、合計107体(生年は1869〜1944、年齢は16歳〜95歳)である。各個体の左右の耳状面を肉眼観察した。耳状面の表面の形を観察し、畝、部分的畝、縞、顆粒、平地の各形質が認められる部位を記載した。耳状面の表面の生地を観察し、細かい生地、粗い生地、多孔質の生地の各形質が認められる部位を記載した。また骨橋の位置と形を記載した。分析は男女別に行った。各個体の出現頻度が年齢(10才ごと)と相関している形質を、年齢変化をよく表す形質とみなした。その結果、男女両方において相関が見られる形質は、粗い生地(出現頻度が年齢と共に低下)と多孔質の生地(出現頻度が年齢と共に上昇)であることから、これら2形質は、年齢変化をよく現す形質であると考えられる。また、細かい生地(若年層に特徴的)と骨橋(高年齢層に特徴的)の2形質は、男性において出現頻度と年齢との相関が見られ、女性においても出現頻度と年齢がある程度関連していることから、年齢変化を比較的現す形質であると考えられる。表面の形には年齢との相関が認められなかった。以上4各形質の変化の程度の組み合わせにより年齢が推定できると考えられる。各形質において、出現頻度の年齢変化の傾向には性差は見られないが、変化の起こる時期や出現頻度の値には性差が見られることから、年齢推定の基準が男女別に設定する必要があると考えられる。本研究の結果はLovejoy et al.(1985)の結果と異なる。その要因は、おそらくLovejoy et al.(1985)が、表面の形態と表面の生地を区別していない点にあるであろう。
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