先史時代の人々について、地域集団ごとの人口構造の比較を行うためには、各古人骨集団について、個々の人骨の年齢推定と、女性人骨の場合、妊娠・出産回数の推定を行う必要がある。そこでまず、古人骨の年齢推定の基準を確立するために、昨年に引き続き、近代日本人骨格標本の観察を行った。観察した標本資料の内訳は、東京慈恵会医科大学所蔵の男性84体および女性39体、千葉大学医学部所蔵の男性132体および女性52体、長崎大学医学部所蔵の男性175体および女性72体、東京大学所蔵の男性24体および女性9体、合計587体(男性415体、女性172体)である。観察した個体は全て死亡年齢の信頼性が高いものである。全個体について、左右の寛骨の肉眼観察を行った。寛骨耳状面の表面および周辺について、耳状面の表面の形を観察し、畝、部分的畝、縞、顆粒、平地の各々が認められる部位を観察した。耳状面の表面の生地を観察し、細かい生地、粗い生地、多孔質の生地の各々が認められる部位を観察した。さらに骨橋の位置と形、および、耳状面周縁の肥厚の程度を記載した。 昨年、男性73体、女性34体の合計107体について同様の分析を行った結果、男女両方において、耳状面表面の生地の形状と骨橋の形成が、年齢変化をよく現す形質であることがわかった。今年度、観察資料数を大幅に増やした結果、上記の2形質に加え、耳状面周縁の肥厚の程度も年齢変化をよく表す形質であることがわかった。したがって、耳状面表面の生地の形状、骨橋の形成、耳状面周縁の肥厚の程度の3形質を用いて年齢推定を行うべきであるとの結論が得られた。
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