本研究では、炭素・窒素同位体比の測定における骨含有コラーゲン抽出・精製法に関して検討した。具体的にはセルロース半透膜を用いることによって水に可溶となったコラーゲン分画を回収し、その炭素・窒素安定同位体比、炭素・窒素含有率、炭素/窒素比を測定し、水不溶性分画・それを加熱し精製したゼラチン分画および残渣と比較した。試料としてロシア太平洋沿岸のBoisman2遺跡出土の人骨試料を使用した。 コラーゲンに関してはC/N比が約3.2で炭素含有率が40%以上という値を目安にして抽出物がコラーゲンであることを確認する。今回の結果ではゼラチン分画が最も良い成績を示すが、残渣および可溶分画も基準を満たしている。一方で可溶性分画は基準を満たすものは無い。安定同位体比をみると、δ^<13>C値では可溶性分画が低い値を示しているのに対し、他の3分画は1%_0以下の変動で互いに強く相関した。この3分画ではゼラチン分画が最も高い値を示し、ついで不溶性分画、残渣の順で低くなる。これは不溶性分画と残渣に土壌有機物が残存している可能性を示唆する。一方、δ^<15>N値では明らかな精製の効果は認められないが、ゼラチン分画のみでδ^<13>C値とδ^<15>N値の間で比較的強い相関が認められ、この人類集団が植物と海獣・大型魚類の2つの食料資源を利用したことを示す。しかし、他では相関が認められず、窒素同位体比に関してもゼラチン化が有効に機能している考えられる。したがって、炭素・窒素同位体分析にはゼラチン化による精製が不可欠であるといえる。可溶性分画に関しては窒素でも同位体比が大きく異なり安定同位体比の測定には適さないが、可溶性分画における値の相違は土壌有機物の混入によるものでなく、アミノ酸組成の変化よる可能性も考えられるので^<14>C測定に関しては今後の検討を要する。来年度は土壌有機物の混入量と微量元素含量の関係を調べる計画である。
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