研究概要 |
本年度は主に,スピン偏極キャリアのトンネル現象に関する知見を得るために,障壁層の厚さを系統的に変化させたGaAs/AlGaAs2重量子井戸構造を現有の分子線エピタキシ装置を用いて形成し,2次元電子間のトンネルにおける層間のトンネル結合の強さとスピン保存/反転トンネリングの関係を調べ,理論モデルを用いて定量的な解析を行った.また,局所分光を行うために必要な低温・強磁場中での光学測定系の整備を進めた.得られた主な成果は以下の通りである. 1. 2重量子井戸構造の両側にゲート電極を設け,各層の電子密度を独立に変化させることができ,かつ各電流・電圧端子と2次元電子との電気的な接続をも独立に制御できるデバイスを作製し,低温・強磁場中での輸送特性を中心に調べた.特に,各々の電子層の占有率νをゲート電圧により制御して2つの電子層間でトンネルに寄与するエッジ/バルク状態のスピン方向を平行/反平行にしたときのトンネル散逸量の大きさを,磁気抵抗の値から評価できることを示した. 2. 下側の電子層が完全にスピン偏極した量子ホール状態(ν=1)のとき,上側の電子層の電子のスピンが平行の時(0<ν<1)に磁気抵抗が大きくなること,また,下側の電子層中の逆向きスピンの数が同数のとき(ν=2)は磁気抵抗に(他方の電子層の)スピン方向に依存しなくなることを見い出し,スピン保存によりトンネル散逸が実際に強められることを明らかにした. 3. 上記のトンネル散逸の障壁層厚依存性から,トンネル結合が弱まるとトンネル散逸におけるスピン保存の影響が小さくなることを見い出し,トンネル遷移とスピン反転散乱のダイナミクスについて量的な知見を得た.
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