本研究は、スピンアキュムレーション法を用いて高温超伝導体の常伝導状態における伝導キャリアーのスピン緩和率を測定することを目的としたものである。背景には、高温超伝導体の常伝導状態における伝導電子(実際にはホール)のスピン緩和を測定することで局在スピンとの結合に関する情報を直接得られる可能性が大きいことが指摘されながら、一方でその代表的手法である電子スピン共鳴法がほとんど効力を発揮しない(おそらく大きなスピン揺らぎのためと考えられている)という難点があったことがあげられる。 本年は、スピンアキュムレーションを行うための実験装置の組み立てと測定用ソフトウェアの開発を行ない、テストとして従来金属材料を用いたスピンアキュムレーション用素子を作製し基礎データを採取した。まず微小抵抗測定用にもっとも優れた感度を持つレジスタンスブリッジを使った4端子法抵抗測定システムを組み立てた。このシステムはサブμΩの測定も可能なように設計した。同時に、データ採取用にWindows95上で専用プログラムを開発した。また並行してフロー型クライオスタットと常伝導磁石による試料冷却システムを構築した。これを用いて評価・テスト用素子として作製した金を2種類のパ-マロイ合金でサンドイッチした構造の素子により金のスピン緩和に関する基礎データを採取し、パ-マロイの磁区反転に伴う抵抗変化を確認するとともに、測定系の感度が実際にサブμΩオーダーであることの確認も行った。これらの結果は初年度としては満足にいくものである。 この結果をもとに2年目にあたる平成10年度は、高温超伝導体に同様の素子構造を作製してスピン緩和測定を実行する計画である。
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