本研究は半導体へテロ界面での光励起キャリアの輸送と終状態の制御による新しい光の波長変換(アップコンバージョン)に関する研究である。異なるバンドギャップを持つ半導体のへテロ界面において小さいバンドギャップの半導体で生成されたキャリアを有効に大きなバンドギャップの半導体側に輸送できれば、大きなバンドギャップ半導体での発光波長は励起光に比べ短波長に変換されたことになる。具体的にはAIGaInP/GaAs系における赤外先のアップコンバージョンを実現し、緑色から青色にわたる光生成を試み、波長変換機構とその規則化パラメターによる制御を行い、以下のような計画で研究を推進した。 (1) 自然超格子における準安定電子状態の解明(平成9年度完了) (2) アップコンバージョン機構の理論計算との比較(平成9年度完了) (3) フェムト秒時間分解分光によるアップコンバージョンのダイナミックス(平成10年度) (4) 原子オーダリングによるアップコンバージョン光の制御(平成10年度) 平成9年度に作製したさまざまなAIGaInP混晶半導体結晶を用いてフェムト秒時間分解分光によるアップコンバージョンのダイナミックスを行い半導体へテロ界面におけるエネルギー変換プロセスについて明らかにすると共に、原子オーダリングを利用して変換エネルギー(波長)を自在に制御することを試みた。具体的な成果は以下のようである。(a)アップコンバージョン光をポンプ&プローブ法によりフェムト秒で時間分解して超高速に精密測定し、入射した赤外先のアップコンバージョン過程を解明した。また、励起波長を様々に変えた実験から波長変換素過程をとらえて、波長変換効率に関する知見が得られた。(b)一連の研究成果をもとに、原子オーダリングによるバンド構造とキャリア輸送の機構を解明できた。これをベースに、原子オーダリングを制御した新しい半導体自然超格子へテロ界面の設計を行い、赤外先の高効率アップコンバージョンを試みたところ、赤色から緑色までの自在な発光波長の制御を実現した。
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