同時スパッタリング法により不純物をドープしたSiナノ結晶を作製することを試みた。電子顕微鏡観察から、Siナノ結晶がマトリックス中に分散して埋め込まれていることが確認できた。また、ラマンスペクトルを、励起波長を変えながら測定したところ、電子ラマン散乱とフォノンラマン散乱との間でFano型の干渉が起こっていることが観測された。このことから作製したSiナノ結晶には、Bが活性化された状態でドープされていることが明らかになった。また、ラマン散乱がp型Siナノ結晶中の不純物濃度の評価に有用であることが明らかになった。しかしながら、不純物濃度の決定などの定量的な議論には至らなかった。バルクSi結晶では、スペクトルの形状及び励起波長依存性からラマン散乱により不純物濃度を見積もることができる。ナノ結晶ではフォノン閉じ込め効果によりラマンピークの形状がサイズに依存して変化する。そのため、p型不純物をドープしたナノ結晶のスペクトル形状にはFano干渉効果とフォノン閉じ込め効果が反映される。両者の効果を考慮した理論でラマンスペクトルの励起波長依存性をフィティングすることにより、不純物濃度を決定できる可能性がある。 次にBを高濃度にドープしたSiナノ結晶の発光特性を調べた。室温では、B濃度の増加に伴って発光強度が減少した。その原因として、BがドープされたSiナノ結晶では、オージェ過程による非輻射遷移の増加することが考えられる。さらに、発光ピークの温度依存性は、低温ほど、また、B濃度が高いほど、バルクSiのバンドギャップ変化から低エネルギー側にずれることがわかった。これは、中性Bに束縛された励起子の発光が関与していることにより生じるものであると考えられる。今回得られたデータは、これまで十分に解釈されていなかったポーラスSiの発光の温度依存性の特異性が、不純物の影響を考慮することによりうまく説明できることを示唆している。
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