Bi系酸化物超伝導体を実用導体として利用するためには、臨界電流密度の向上が不可避の課題である。従来、臨界電流密度の向上は多結晶体を中心に研究が進められてきた。これは磁束をトラップするピンニングセンターの導入が単結晶では困難であると考えられたためである。しかし、層状構造を持つ本化合物においては単結晶体においても非超伝導化合物層の混じった結晶を成長させたり、結晶中に人工的に格子欠陥を導入できれば、これをピンニングセンターとして利用することが可能となり、これによって単結晶の高Jc化が成し遂げられることが予測される。このような観点から、本年度はBi系酸化物超伝導単結晶の育成システムの整備と、超伝導特性の測定システムの構築を中心に研究を推進した。 単結晶の育成システムとして、従来の箱形電気炉を用いた自己フラックス法による単結晶育成システムの温度コントロールシステムにパーソナルコンピュータの導入による改良を加えた。これにより、精密で複雑な温度コントロールが可能となり、単結晶自体の大型化と高品質化に顕著な成果が得られた。 また、超伝導特性測定システムとして、磁気的に超伝導特性を測定するシステムを構築した。現有の冷凍機に組み込む形で、交流帯磁率法による磁化率-温度特性の測定装置を作製し、抵抗値(電界)の変化から判断していた超伝導遷移を、磁気的な変動として超伝導現象を解析することが可能となった。 これらのシステムにより、Bi系酸化物超伝導単結晶の高品質化が成し遂げられ、また、臨界電流密度の精密な評価も可能となった。来年度はこれらを利用して、当初の目的である単結晶体の臨界電流密度がどこまで上昇するか検証していく予定である。
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