本研究の目的は、分子線散乱技術を応用することにより、半導体表面再構成と表面反応の初期過程である分子の散乱(吸着・脱離)の関係を明かにすることにある。これにより、特に、結晶成長、エッチング等の半導体素子形成制御に関わる知見の得られることが期待される。 本年度は、散乱におけるエネルギー緩和計測の定量性を高めるため、実験装置に液体窒素シュラウドを備えた入射分子線観測室を付加すると共に、自発的な電気双極子モーメントを有するエピタキシャル成長の代表的な原料ガスのひとつであるアンモニアのGaAs(100)、(111)B表面における散乱について検討を進めた。 これまでに得ている極性を有しないトリメチルガリウムでの実験結果は、再構成した半導体表面に電子数評価モデルから予想される電荷分布を起源とし、トリメチルガリウムの分極を誘起することで生じる静電的相互作用を考慮することで定性的に理解できていた。アンモニアにおける実験結果は、解析の途中であるが、トリメチルガリウムの実験結果から考えられるモデルにより定量的に理解できそうである。すなわち、この実験により、理論的には予想されながら実験的には確かめられていなかった半導体表面上の大きな電荷分布の存在を確認するとともに、得られた知見をもとに、半導体表面における表面反応制御の可能性が拡大した。 以上述べたように、今年度は、表面に捉えられた後の分子の挙動について主に検討してきた。来年度は、今年度導入した入射分子線散乱室を活用するとともに、希釈分子線による入射速度制御を行うことにより、分子の表面に捉えられるまでのエネルギー緩和過程について詳細に観測し、表面再構成構造と表面反応の関係を検討していく予定である。
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