半導体表面は条件により様々な再構成構造をとることが知られている。再構成構造に上り表面反応が異なることが予想されるが、これまで系統的な検討がなされてこなかった。本研究では、分子線エビタキシャル成長(MBE)を用い詳細に再構成構造の制御されたGaAs表面を準備し、パルス分子線を照射したときの散乱分子を散乱過程を時間分解で観測することにより、結晶成長表面反応の初期過程である原料ガスの吸着脱離における動的挙動と再構成構造との関係を調べた。 代表的なIII族原料ガスであるトリメチルガリウム(TMG)と、窒化物半導体のV族原料ガスであるアンモニアの結果を比較することにより、次のような結論が得られた。 (1) ほとんどの再構成表面では、これら原料分子は一旦分子状のまま前駆状態に捉えられる。 (2) 前駆状態は主に分子の持つ電気双極子モーメント、双極子感受率、電子数評価モデルで予想される表面電荷分布を起源とする静電的な相互作用から生じている。 (3) 表面構造と分子の組み合わせにより、前駆状態に捉えられた分子が化学的吸着状態を経て解離に至る場合と解離することなく脱離する場合がある。この解離に至る成分が結晶成長に寄与する。これは、表面構造と分子の安定性により系統的に理解することができる。 (4) GaAs(111)B-(2×2)表面ではTMG、アンモニアともに前駆状態に捉えられることなく脱離した。これは、この表面のもつ幾何学的な構造で理解することができる。 (5) アンモニアは原料ガスとしては安定な分子であるが、Ga過剰のGaAs(111)B-(1×1)では、室温で解離吸着することを確認した。これは、この表面の反応性の高さによる。 以上、得られた結果は、エピタキシャルル成長制御の新たな可能性を示すものである。
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