本研究では、II-VI族半導体のZnSeとIII-V族半導体のGaAsを積層したときに界面に生じる原子価の不整を利用し、従来、あるヘテロ構造に対して一意に決まると考えられていたバンド不連続の人為的な制御を試みた。以下に、本年度の研究で得られた結果を示す。 1.GaAs上にZnSeを成長する際、ZnあるいはSe原料でGaAs表面をあらかじめ処理した。Zn処理は、界面のGaAs側にZn-As(アクセプタ)結合を形成すること、逆にSe処理はSe-Ga(ドナー)結合の形成を意図している。これらの処理によって、バンド不連続量を決定する要因である界面双極子のベクトルを反転することができると期待される。このように原子の結合を制御するためには、界面が原子レベルで平坦であることが望ましい。本研究では、界面の平坦性そのものを評価することはできなかったが、成長後のZnSe表面が、成長条件や界面でのGaAs処理条件に関わらず、成長最初期から原子層レベルで平坦であることを原子間力顕微鏡観察により明らかにし、間接的にではあるが、急峻な界面が形成されていることを示した。 2.界面での化学結合の様子、さらにバンド不連続量をX線光電子分光法(XPS)により評価した。その結果、GaAs表面をZn処理した場合にはSe処理の場合と比較して価電子バンド不連続が大きくなることが分かった。Zn処理によりGaAs側にアクセプタ結合ができた結果、ZnSeよりGaAsへの電子の移動が生じ、GaAs中における電子のポテンシャルが高くなったのではないかと考えられる。当初の予定通り、界面での原子結合を制御することによって、バンド不連続が制御可能であることが示された。
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