本研究では、II-VI族半導体のZn(S)SeとIII-V族半導体のGaAsを積層したときに界面に生じる原子価の不整を利用し、従来、あるヘテロ構造に対して一意に決まると考えられていたバンド不連続の人為的な制御を試みている。今年度は、特に、硫黄(S)原子を界面に挿入することの効果を検証した。以下に、本年度の研究で得られた結果を示す。 1.GaAs上にZnSeを成長する際、ZnあるいはSe原料でGaAs表面をあらかじめ処理した。その結果、処理法の違いにより、価電子帯不連続量が0.6-1.1eVの間で変化することがX線光電子分光法(XPS)測定より分かった。界面にSを挿入した場合でも、変化の程度は同程度であった。これは、格子不整合による欠陥の生成を防ぐためにSの組成を7%に抑えているために、Sによる価電子帯不連続量の変化が、測定誤差内に含まれてしまったためであると考えた。 2.上記の実験は、膜厚数nmの試料で行った。これを実際のデバイスに使用する程度の膜厚(μmオーダ)として、界面に存在するSがどのような影響を持っているのかを調べた。具体的には、Zn(S)Seをn型、GaAsをp型としたダイオードを作製し、その電流-電圧特性を測定した。その結果、バンド不連続の制御に基づいた立ち上がり電圧の変化が観察された。さらに、界面にSを挿入した場合に限り、負性抵抗が現れることが分かった。この現象は、界面での原子配列・種類を適当に制御してやれば、界面物性さらにはデバイス特性を人為的に制御できることを意味している。
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