始めに、水素終端Si(111)面を酸化することにより、膜厚1.8nm以下の極薄酸化膜の価電子帯構造の初期形成過程を詳細に検討した。実験は、試料に抵抗率10-20Ω・cmのn-typeSi(111)基板を用い、40% NH_4F溶液処理により水素原子で終端されかつ原子スケールで平坦なSi(111)面を用意した。この水素終端Si面上に乾燥酸素中300℃で膜厚約0.5nmのプレオキサイドを形成し、このプレオキサイドを介して、酸化温度600-850℃で酸化膜厚が約1.8nmとなるまで酸化した。試料の評価は、高分解能X光電子分光装置(Scienta Instruments AB 製ESCA-300)を用いて、光電子の脱出角15°と90°で価電子帯およびSi 2p光電子スペクトルを測定することにより行った。表面検出感度の高い光電子の脱出角15°で測定した膜厚の異なる試料からの光電子スペクトル間で差分を行うことにより、酸化膜表面近傍の価電子帯スペクトルを抽出した。この結果と、検出深さの深い光電子の脱出角90°における価電子帯スペクトルの測定結果との比較から、界面から約0.9nm以内のシリコン酸化膜の価電子帯の上端は、バルクの酸化膜のそれと約0.2eV異なることを見出した。次に、面方位の違いによる影響を明らかにするために、希ふっ酸処理により作製した水素終端Si(100)面を用いて実験を行った。Si(111)面の場合と同じ方法で、価電子帯形成過程を検討した結果、Si(111)面の場合と同様に、界面から約0.9nm以内のシリコン酸化膜の価電子帯の上端は、バルクの酸化膜のそれと約0.2eV異なることを見出した。平成10年度は、極薄酸化膜の価電子帯構造に及ぼす酸化膜の形成条件の影響を明らかにするために、プラズマ酸化により酸化膜を形成した場合の酸化の進行に伴う価電子帯構造の変化を測定する。
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