100eV以上のエネルギーを持つ光を反射する軟X線多層膜は、その作製が困難であり、その理由として、(i)多層膜を形成する2物質間に混合層が存在する、(ii)層の厚さを正確にコントロールすることが難しい、という2点が挙げられる。本研究では、この困難をエピタキシャル成長膜を使うことにより、この2つの問題を避け、最終的に100eV以上のエネルギーを持つ光を反射できるような軟X線多層膜の製作技術の確立を目的とした。 目的を達成するため、初年度は多層膜の振動によるRHEEDの強度振動を観測するための装置を作製した。動作確認を行ったところ、CaF_2の成長に伴った強度振動が観測され、強度振動をモニタすることにより膜厚のコントロールが可能となった。 今年度は、エピタキシャル成長条件を満たす物質対としてSi/CaF_2を選び多層膜を、実際に多層膜の作製を行った。多層膜の作製にあたって、反射率の計算の基礎となる光学定数を求めるため、分子科学研究所UV-SOR施設においてSi/CaF_2多層膜の反射率測定とTotal Electron Yield測定を行った。その結果は、平成10年8月にサンフランシスコで開催された「第12回真空紫外物理学国際会議」において発表した。 実際に作成したSi/CaF_2多層膜の反射率測定を行った。Si 119Å/CaF_2 45Åの多層膜で299Åの波長の光に対し、計算では22%の反射率が得られるはずであったが、実際は2%程度の反射率しか得られなかった。現在、その原因を解明中であるが、Si/CaF_2/Si(111)多層膜とCaF_2/Si/CaF_2/Si(111)多層膜のTotal Electron Yieldスペクトル形状が互いによく似ていることから、CaF_2上にSiを積んでいったときにCaF_2ないしはCa化合物がSi層を通じて析出しており、多層構造が形成されていないのではないか、と考えている。
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