半導体レーザ光注入によって引き起こされる損失の空間的不均一飽和を利用した、光ファイバレーザの新しい発振周波数安定化と制御の手法の実証が本計画の目的である。本年度は、可飽新吸収体を組み込んだリング形およびファブリペロ形エルビウム添加光ファイバレーザを対象として、基本原理の実証を試みた。得られた成果は以下のとおりである。 1.リング形ファイバレーザの発振周波数安定化 半導体レーザ光を注入しない状態においては発振周波数が不安定に変動していたが、半導体レーザ光注入によって発振周波数が半導体レーザと等しくなり、周波数安定化が容易に実現した。しかも発振スペクトル線幅は半導体レーザの1.5MHzと比較して2桁以上小さい7.5kHzとなった。すなわち、半導体レーザ並の周波数安定度を持ち、ファイバレーザ並の狭線幅を備えたレーザが実現可能となり、本手法の有効性が実証された。 2.リング形ファイバレーザの発振周波数制御 半導体レーザ注入光の周波数を変化させることにより、リングレーザの発振周波数も制御可能であることが明らかとなった。リングレーザ中に半値全幅375GHz(波長3nm)の帯域通過フィルタを挿入した状態では、フィルタの中心からの離調周波数が35GHz(波長0.28nm)以下の注入光によって波長可変動作が可能であり、全幅70GHzの周波数可変動作が可能となった。それ以上の離調においては波長可変単一周波数動作は不可能だが、注入光とフィルタの中心周波数の2周波数発振が起こり、それらの発振モードの偏波状態が互いに直交していることが明らかとなった。 3.ファブリペロ形光ファイバレーザの特性 ファブリペロ形ファイバレーザにおいては、リング形のような周波数安定化と制御は未だ実現を見ていない。これは、共振器中の偏波状態の不安定に大きな原因があり、実験系の改善が望まれる。
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