研究概要 |
輪切りにした摘出血管の輪を切断すると円弧状に開くことが多い.これは摘出血管の内壁に圧縮,外壁に引張りのひずみが残留していたことを示し,血管壁が生理状態で壁内のひずみや応力を一様に保っている可能性を示唆する現象である.申請者は数年来この輪の開きが平滑筋の収縮・弛緩に影響を受けることを明かにしてきたが,この過程で軸方向の変形も無視できない場合のあることが明かとなってきた.そこで本研究では平滑筋収縮の血管壁内ひずみ・応力分布に対する影響を軸方向の変形を考慮して探ることを目的とし,初年度は平滑筋収縮に伴う家兎胸大動脈壁の3次元形状の変化を細かく調べた.摘出試料を血管軸方向に切開し,円局方向および軸方向に夫々長軸を有する矩形試料を作製した。試料の長辺は円周方向試料の場合には円周長,軸方向試料の場合には10mmとし,短辺はともに1mmとした.平滑筋収縮にはNorepinephrine(NE)を用い,濃度を10^<-9>Mから10^<-5>Mまで10倍ずつ上昇させつつ開き角(円弧両端と両端から円弧上で等距離にある点とのなす角)変化を計測した。円周方向試料の開き角は最初約80°で,NE濃度の上昇に伴い約40°減少(10^<-7>M)した後,増加に転じ,10^<-5>Mで初期状態から約15°増加した。一方,軸方向試料では初期値は約280°で,NE濃度が10^<-7>Mになるまでは変化なく,その後は濃度上昇に伴い増加して10^<-5>Mで約400°になった.組織を観察したところ中膜の内側4/5では平滑筋が通常の動脈壁と同様に円周方向に並んでいたのに対し,外側1/5では軸方向に配列していた.このような配向の場合,平滑筋収縮の初期段階では内側の平滑筋の収縮により輪が閉じる方向に変形し,その後,軸方向の平滑筋の収縮が強まると輪が開きつつ軸方向に反り返ることが考えられる。家兎胸大動脈の複雑な変形はこのような平滑筋走行に起因するのかも知れない。
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