研究概要 |
本研究では,機能的な表面を新たに創製することによる耐フレッティング疲労対策の確立を目指し,摩擦摩耗特性が優れているものの,フレッティング疲労特性についてはこれまでほとんど検討例のないPVD法によるTiN被覆,ならびに高速フレーム溶射によるWC/Co溶射を取上げ,基本的なフレッティング疲労特性ならびに破壊機構の詳細な検討を行った.得られた主な結論をまとめると以下のようである.なお,TiN被覆炭素鋼のフレッティング疲労特性については,前報(平成9年度実績報告書)に記述したので,本報では,高速フレーム溶射法によりWC/Co12%を溶射したNi-Cr-Mo鋼(SNCM439)のフレッティング疲労特性についてまとめる. (1) WC/Coを溶射したSNCM439W4のフレッティング疲労強度は,処理を施さない未処理材のそれに比べ30〜40%程度向上した. (2) WC/Co溶射材の場合,同応力レベルでの接線力(摩擦力)の値が未処理材に比べ低く,その傾向は特に寿命初期の段階で顕著であった. (3) WC/Co溶射材のフレッティング疲労破壊機構は,溶射層表面のフレッティング部で発生したき裂がフレッティングの繰返しに伴い溶射層を貫通し基材に進展し破断に至る. (4) WC/Co溶射材のフレッティング疲労き裂は,溶射層表面のフレッティング部においてフレッティング摩耗が進行し,ある程度摩耗が進行した後その摩耗損傷を起点として発生する.したがって,未処理材に比べフレッティング疲労き裂の発生が遅延したことが,溶射材のフレッティング疲労寿命が向上した主な要因である. (5) WC/Co溶射処理の際,前処理としてブラスト処理を行った場合,その際に使用した粒子が界面に残留し,特に高応力レベルで疲労破壊の起点となる場合があった.したがって,溶射処理を耐フレッティング疲労対策として適用する際には,十分に注意を払う必要がある.
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