表面状態を表すパラメータの一つである表面あらさは、工業的にきわめて重要な量である。これらの量を定量的に測定するため、現在ではそのほとんどに、ダイヤモンド触針法が利用されている。 このような状況のなかで申請者は、卓越した技能をもつ熟練技能者の指先を用いたセンシング技術に注目した。彼等は、長年の経験から、表面の状態を特殊な測定器を用いることなく、その指先で触れるだけで、測定を行うことができるようになる。したがって、この熟練技術者の指がモデル化され解析されれば、これまでにない新しいタイプのセンサを製作することが可能となる。 はじめに、人の指先の感覚受容機構について調査を行った。その結果、人の指先には、速順応性のマイスネル小体、パチニ小体、遅順応性のメルケル細胞終末、ルフィニ終末とがあることがわかった。しかし、これら触圧受容器と触圧覚との1対1の対応関係は、厳密には分かっていない。また、人の指紋について調査を行った。その結果、指紋の分類は、Purkinje法およびGalton-Henry法に分けられ、前者では、横線型、中心線型、射洞型、偏桃型、渦巻型、楕円型、円輪型、重渦型、三又線型に分けられ、後者では、弓状紋、蹄状紋、渦状紋、円輪紋、三又線紋に分けられる。 以上の結果より、指紋の中からもっともシンプルな円輪型を選び、センサの試作を行った。円輪のピッチは、7種類作成し、あらさの異なる5種類の試験片に対して実験を行った。しかし、実験では得られた出力波形を周波数分析した結果には、あらさと出力信号との間に有益な関係を見い出すことができなかった。この原因としては、指紋型センサの面の平均として信号を取り出していたため、局部的な信号が平均化されてしまい、あらさに対応した信号が得られなかったものと考えている。 そこで、今後、センサの局部の微小変位を測定することのできる測定器を開発して、同様の実験を行っていく予定である。
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