流体の分子レベルの構造に関しては、動径分布関数やクラスタの大きさを調べる方法などが主に用いられているが、これらはいずれも時間平均的な特性を表すものであった。これに対して、分子運動が生起する熱現象を解明する分子熱工学の観点から重要なのは、流体の微視的構造が分子の熱運動とともにどのように変動しているかを表す動的構造である。この動的構造をどのように評価するか、特に、熱・物質移動を支配する動特性をどのように特定して解明するかについては、未だ解析法すら定まっていない。したがって、今年度の本研究は、この流体の動特性の解析法を確立することに重点を置いて進められた。すなわち、流体の温度の低下や密度の増加と共に流体分子がクラスタを形成しながら凝縮してゆく過程や、とくに臨界点近傍の流体において分子クラスタの合体・分解が激しく起こっている様子などを明らかにした。また、クラスタ中に分子が滞留している時間を求め、これをクラスタ構造の安定性の指標としてもちいる解析法を確立し、単純流体と水について温度・密度の変化に対応したこれら動特性の挙動を解析した。この結果、水については臨界点近傍で水素結合ネットワーク構造の安定性が極小値を示すものの、臨界現象に主要な役割を果たすのは水素結合ネットワークだけではないことなどが明らかとなった。さらに、水やLJ流体の構造が気液界面でどのような特性を示しているかに解析を進め、界面近傍における水素結合の寿命などについて成果を得た。 来年度に向けて、流体中のエネルギー伝播(マクロな意味での熱伝導)と流体の構造の関連を明らかにするため、水の分子間におけるエネルギー伝播について解析を開始した。平成10年度内には解析を終了し詳細を明らかにする予定である。
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