安定温度成層流中でのアクティブスカラー(熱)とパッシブスカラー(物質)の乱流拡散係数の違いに及ぼす分子拡散の効果を明らかにするために、安定温度成層を形成する格子乱流場の中をパッシブスカラーがプルーム状に乱流拡散する場合に対して三次元直接数値計算(DNS)を行った。熱と物質の乱流拡散に対する分子拡散の効果を等しくするために、熱のプラントル数と物質のシュミット数を同一に設定して計算を行い、乱流拡散係数を評価した。その結果、分子拡散係数を同一に設定したDNSにおいても、両者の乱流拡散係数には違いが生じ、熱の乱流拡散係数のほうが物質の乱流拡散係数よりも小さな値をとることがわかった。すなわち、実験で測定された乱流拡散係数の違いは熱と物質の分子拡散係数の違いに起因するものではなく、浮力(安定温度成層)によって引き起こされる現象であることが明らかとなった。さらに、気相の安定温度成層乱流場に対する計算結果より、大気中でもアクティブスカラー(熱)とパッシブスカラー(物質)の乱流拡散係数には違いが存在することがわかった。これらの結果より、温度成層流中に放出されたパッシブスカラーの拡散予測を乱流モデルを用いた数値計算で行う際に、従来のようにパッシブスカラーの乱流拡散係数としてアクティブスカラーである熱の乱流拡散係数をそのまま用いて計算を行えば、物質フラックスの予測に対して重大な誤差が生じることが明らかとなった。
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