研究概要 |
mmオーダー細胞の凍結による損傷を低減するためには,凍結・解凍過程において細胞内の氷晶成長を抑制できる条件を模索し,凍結状態と解凍後生存率の関係を明確にする必要がある.本年度は,液体窒素中における熱物性値による凍結保存状態評価の有効性を検討するため,赤血球懸濁液の凍結状態における有効温度伝導率と解凍後生存率を測定した. 実験試料にはヒト赤血球懸濁液(ヘマトクリット:HCt.2,4%)を用い,凍結・解凍後の生存率を(1-溶血率)で評価した.凍結保護物質には0,10,35wt%プロピレングリコール(PG)を用いた.試料は,断熱材製の試料室(φ24×4mm)に配置され,試料室冷却部(蓋兼用の窒化アルミニウム板,t0.8mm)を液体窒素で冷却した銅ブロック(50mm立方)との密着により凍結される.試料の伝熱モデルは片面昇温,片面断熱の一次元熱伝導とし,試料室内の温度は熱電対(t0.1mm)により冷却部と断熱部2ヶ所で測定した.冷却速度は,銅ブロック上部のカーボン板ヒーター(t0.1mm)をDC電源と温度調節計により加熱制御し,1〜約800℃/minを得た.有効温度伝導率は,試料凍結後-190℃において5℃加熱して試料室内2ヶ所の温度変化を100秒測定し,ラプラス変換法により計算した.その結果,0,10% PGにおける凍結赤血球懸濁液の有効温度伝導率は,冷却速度増加に伴い細胞内外の氷晶形状の変化と微細化により低下した.35% PGにおける有効温度伝導率は,冷却速度増加に伴い細胞内外の氷晶形成量の減少により低下した.そして,Hct増加に伴い細胞内の凍結状態と細胞容積率の増加によりさらに低い値となった.しかも,凍結状態における細胞内外の氷晶形成量と解凍後生存率は相関した.よって,有効温度伝導率により細胞の凍結状態を評価できる可能性がある.
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