有機シリコンの一つである珪酸エチル(TEOS)は、オゾンとの反応系による化学的気相合成(CVD)によって、半導体デバイス内部の絶縁膜として用いられる高段差被覆性シリコン酸化膜の合成が可能である。本研究では、膜質等も含めた、より高性能なシリコン酸化膜の合成を目的に、無声放電により酸素ガスからのオゾンや酸素原子等の活性酸素種の生成が制御されている場へ、ヘリウムによるバブリングによって珪酸エチルを導入し、シリコン酸化膜合成を行う方法を考案した。無声放電は、大気圧下において熱的、化学的に非平衡なプラズマ状態が形成でき、通常は低周波交流の印加電圧方式であるものを、方形波パルスまたは高周波交流とすることで、より高い非平衡性を得ることが可能となる。 そこで、まず低周波(商用60Hz)交流と方形波パルス(250Hz)の印加電圧方式における放電特性の確認実験を行った。特に低周波交流の場合では、バブリングに用いるヘリウムの火花電圧、すなわち無声放電におけるストリーマ放電開始電圧が特に低いことから、珪酸エチル(ヘリウムを含む)および酸素によって構成される反応ガスの組成によって、反応場に形成される熱的非平衡度が異なり、酸素の組成比が高いほどこの非平衡度が高くなることが明らかにされた。次に基本的な電圧印加形式である低周波交流場合において、シリコン酸化膜の合成実験を行った。放電状態が合成状態に与える影響を調べるため、基板温度は648Kで一定とし、反応ガス組成、投入電力を変化させた。酸素のガス組成比0.71、投入電力3Wの条件において、0.24μm/minの高速合成が実現され、さらにこの時、高さ1μmの段差パターンにおいて、高い被覆性、良好な表面モフォロジーを確認した。 合成実験の結果より、本手法の有効性が明らかにされた。今後、膜質の評価とともに、方形波パルスまたは高周波交流の場合における合成特性を評価する必要がある。
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