研究概要 |
医療の高度化に伴い,血管の縫合や眼球の手術など微細な生体器官に対する手術が要求されてきている.一方,医師はピンセットや針などで生体に対して手術を行うが,人間本来の筋肉やそれを制御する神経系の特性により,手先に自励的な振動現象が見られる.それにより,微細な手術はよほど熟練した医師でないと行うことができない.本研究の目的は,自励現象を抑制し,経験の浅い医師でも微細な手術を行えるようにするため,自励振動を抑制できる手術器具を開発することである. 平成9年度で自励振動の変位におけるの発生周波数や振幅を調べた.しかしながら指の振動が手術器具に伝わるのは指先の皮膚特性を介してであり,その特性を調べなければ効率のよい振動抑制をすることができないことがわかった.そこで,平成10年度は指先の変位だけではなく,力も測定し,指先皮膚組織のインピーダンス特性を調べた.そして,自励振動抑制の制御システムの開発のための重要な知見を得た.得られた結果を以下に示す. 1. 指先垂直方向の自励振動はほぼ5Hzから10Hzの間であり,接触力が強くなると,指先変位の自励振動は高周波となり振幅も小さくなる.しかしながら力は振幅周波数ともほとんど変わらない.つまり,器具をつかむ力に係わらず自励振動の大きさは変わらないことがわかった.従って,振動を抑制するためには指先より伝わる力を測定し,5Hzから10Hzのバンドパスフィルタをかけた後,その力を打ち消す制御力をかけてやればよいことがわかる.ただし,自励振動力の大きさは器具をつかむ力に対して変わらない. 2. 指先せん断方向のインピーダンス特性を見ると,剛性は器具つかみ力に比例して大きくなっているが,粘性特性は変化しないことがわかった.従って,器具のつかみ方により振動の周波数は変化するが,減衰は変化しないことがわかった. 今後の課題として,本研究結果を反映した制御器を組み込むことができる,小型軽量の振動抑制装置の実現であろう.
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