本研究においては、人間型ロポットやcomputer graphics内の人物の情緒豊かな動作を設計する手法の確立を目指して、文楽協会所属のプロの人形遣いが操作した文楽人形の動作を測定し解析している。その演技動作には人間の情緒表現が典型的に表現されていることから、日本古来の伝統芸能である文楽人形の演技動作に注目したものである。情緒表現を伴った動作を解析することで、動作の中に含まれる情緒表現の法則を解明し、情緒表現を伴った動作を設計・生成する指針を得ることを目標としている。 測定された人形の動作における情緒表現をより見通しよく捉えるために、動作の主要な部分を表す要素として動作軸を提案している。動作を動作軸とこれに対する相対動作にわけて考え、文楽人形の演技動作に含まれる情緒表現のなかでも、この動作軸に表れている部分に特に注目し解析が行われている。 測定した演技動作のうち、情緒表現を伴った動作(情緒動作)と情緒表現を伴わない動作(機能動作)を動作軸を用いて比較した結果、動作の位相(動作の長さ)と振幅(動作の大きさ、質)が変化することで、情緒表現を伴った動作が生成されると考られている。その知見から、情緒表現の要素として、位相要素と振幅要素の2つの要素が提案されている。 情緒表現における位相要素を抽出する手法として、ウェーブレット係数を用いて情緒動作と機能動作の対応する状態を決定し、情緒動作から位相変化を取り除く手法が提案されている。また、情緒表現における振幅要素を抽出する手法として、機能を持った動作単位であるフレーズ毎に位置、増幅およびウェーブレット係数を調整することで情緒動作から振幅変化を取り除く手法が提案されている。そして、これらの手法を用いて実際に位相要素、振幅要素が計算されている。 また、動作軸に注目した動作生成手法が提案され、情緒表現における位相要素、振幅要素を用いて実際に情緒表現を伴った動作を生成してその有効性を示している。
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