現段階までは、把持の安定性の問題を扱ってきた。マルチフィンガーシステムの総コンプライアンスは、第一に、指自身のコンプライアンスに由来し、第二に、しばしば把持の不安定性の原因となる、接触力の相互作用に由来している。 我々の研究においては、安定性の特性を把持の力の分布と関連付けている。このため、安定性解析はコントロール・システムの階層性のプランニングレベルで行われる。このアプローチでは、剛性テンソルが線形化された剛体モデルにより直接導かれるため、弾性に関する特性をモデル化する必要がない。 初めに、コンスタントな力を受ける剛体のポテンシャル関数が導かれ、接触力の分解により剛性テンソルの構造が表現される。剛性テンソルは、重力および内部力に起因するものとの2つの要素を持つ。内部力のパラメータ化は接触点の組を通じて行われる。我々は、それぞれの2点の接触点に対し、2点を結ぶ線上に投射された接触力を定義した。これは、接触点をつなぐ仮想的ばねの線形および回転剛性とも解釈される。 安定性解析は、剛性テンソルのそれぞれについて為された。安定性の必要条件の一つが、重力由来の剛性に関して確定された。この条件は明確な幾何学的解釈を持つ。つまり、把持が安定であるためには、物体の重心は接点の幾何学的中心になければならない。 内部力の負荷の存在下での安定な把持のために、2つの条件が分析的なかたちで得られている。第一の条件は、仮想的ばねの線形剛性の総計は正であること。接触力空間においては、それは平面で与えられる。第二の条件は、特異的な符号不定2次形形式を用いて確定される。それは、仮想的回転剛性空間においては、円錐である。こうして、幾何学的見地から、安定領域はこの円錐と第一の条件により特定された平面との共通部分となる。
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