本研究は、多結晶Nb/Aloxide/Nbトンネル接合を基礎として発展してきた超伝導デバイスのさらなる高性能化をはかるために、母材である多結晶Nb簿膜を単結晶化して、従来問題となってきた結晶粒界での電子散乱や磁束捕捉などを低減しようとする試みである。平成9年度においてはまず、高温加熱したsapphire R面(11^^-02)基板上に高真空電子ビーム蒸着法によってヘテロエピタキシャル成長させたNb簿膜について、その結晶学的評価を行うと共に、デバイス応用時に一番問題となる電気的・磁気的性質を詳細に調べた。X線回折・RHEED(反射高速電子線回折)・AFM(原子間力顕微鏡)等による評価や抵抗-温度特性測定の結果、得られたNb簿膜はほぼ単結晶となっており、低温での電子散乱も小さいことがわかった。また、SQUID(超伝導量子干渉素子)磁化率計を用いて磁化特性を調べたところ、上部臨界磁界H_<c2>の値は2600Gauss程度となり比較のために作製した多結晶Nb簿膜のそれ(約5000Gauss)よりも小さく、やや第一種超伝導体的な性質を帯びていることがわかった。またTc(超伝導転移温度)付近におけるH_<c2>の温度依存性から算出したGinzburg-Landauのコヒーレンス長ξ_<GL>(0)の大きさは約27ηmで、多結晶膜のそれ(約16ηm)よりも大きな値となることから、トンネル接合等へのデバイス応用時には有利であることが予想される。次にデバイス化の予備的な実験として、超伝導トンネル接合のバリア/電極として想定したTa/Nb積層構造をエピタキシャルに成長させることを試みた。基板加熱を特に行わずに作製したTa簿膜は、sapphire基板上では無配向となるものの、エピタキシャルNb上では配向しβ-Ta、bcc-Taの混相となった。さらにTa成膜中にも高温での基板加熱を行うことでエピタキシャルTa/Nb積層構造を得ることができた。現在、得られた積層膜の評価と成膜条件の最適化を行っている。
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