本研究は、多結晶Nb薄膜を基礎として発展してきた超伝導デバイスのさらなる高性能化をはかるために、Nb薄膜を単結晶化して従来問題となってきた結晶粒界での電子散乱や磁束捕捉などを低減しようとする試みである。sapphireR面(1102)基板上に高真空電子ビーム蒸着法によってヘテロエピタキシャル成長させたNb薄膜は、すでに平成9年度に行ったX線回折・RHEED(反射高速電子線回折)・AFM(原子間力顕微鏡)等による評価や抵抗-温度特性測定の結果から、ほぼ単結晶となっており低温での電子散乱も小さいことがわかっている。平成10年度は、前年度に測定を行った強磁場特性の評価に続いて、弱磁場中での特性の精密評価を行った。磁気シールド内で超伝導量子干渉素子(SQUID)グラジオメータを用いてNb薄膜の磁束ノイズの測定を行った結果、超伝導転移時に磁場を印加しながら冷却した場合のエピタキシャルNb薄膜の磁束ノイズレベルは、特に低周数領域において多結晶Nb薄膜のそれよりも小さいことがわかった。このことは、低周波ノイズの原因となる磁束トラップが少ないことを意味しており、SQUID等のデバイスに応用した際のエピタキシャル膜の多結晶膜に対する優位性を示唆するものである。なお、これらの測定はすべて液体He中(温度4.2K)において行われたため本年度設備備品であるHe液面計が使用された。次にデバイス化への第一歩として、超伝導トンネル接合のバリア/電極として想定したTa/Nb積層構造をエピタキシャルに成長させることを試みた。エピタキシャルNb上に基板加熱を特に行わずに堆積したTa薄膜は(100)と(110)配向の混相となったが、Ta成膜中にも高温での基板加熱を行うことで(100)配向への単相化が可能となり、エピタキシャルTa/Nb積層構造を得ることができた。実際のトンネルバリアとしてはこのTa表面を酸化して絶縁層としなければならないため、本年度設備備品であるバラトロン真空計でモニタしながら酸素ガスを導入している。現在、得られた試料Ta表面での酸化状態を光電子分光・SIMS等により解析している。
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