情報通信ネットワークの発達に伴い、飛躍的に増大する情報を整理・保存するためのコンピュータ用の外部記憶装置として使用される次世代の超高密度磁気記録媒体として、化学的安定性に優れ、長期間の情報の保存にも耐えられるバリウムフェライト薄膜媒体が注目されている。しかし、バリウムフェライトは、その結晶構造が複雑なため結晶化には大きな熱エネルギーが必要とされ、作製に当たっては高温での基板加熱あるいは熱処理が必要とされている。そのため、膜の表面平滑性の劣化や使用する基板の制限等の問題が生じている。 そこで本研究では、バリウムフェライト薄膜を低温で作製するために、非平衡状態であるスパッタ中にレーザーを基板に照射することでスパッタ原子の移動を助け、バリウムフェライトを結晶化させることを試み、その膜構造を詳細に調べることで記録媒体としての可能性を探ることを目的とする。 そのために、レーザーアニール装置(本申請による)により、レーザー光をr.f.スパッタリング装置のチャンバー内に導入し、基板に照射し、高精度膜厚モニター(本申請による)により膜厚を制御しながら成膜を行った。しかしながら、堆積直後の膜は微結晶状態であり、目的とするバリウムフェライト相の結晶化は見られなかった。そこで、この膜の結晶化温度を調べたところ、650℃であり、従来法に比べ大幅な結晶化温度の低下は見られなかった。このことは、使用したレーザーのパワーが十分でなかったこと、およびレーザー光を外部からチャンバー内に導入するため、レーザーの照射パワーが減衰したことによると考えられる。そこで、低いエネルギーでも基板上で移動しやすく、かつバリウムフェライトの六方晶構造をマッチングの良いPbを添加し、結晶化を促進することとした。その結果、結晶化温度は550℃となり、100Kの低温下が達成された。また、この膜を原子間力顕微鏡により観察した結果、磁性粒子のサイズは約20nmと非常に小さく、表面平滑性も非常に良好であり、高密度磁気記録媒体として、有望であることが確認された。
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