研究概要 |
微細加工したGaAs探針をスピン偏極走査型トンネル顕微鏡(SP-STM)へ応用することについて検討し,以下の研究成果を得ることができた。 (1)GaAs探針の作製 正方形のレジストマスクパターンを通してH_3PO_4溶液によるGaAs基板の異方性エッチングを行い,安定した(150)ファセット面に囲まれたピラミッド形状の探針構造を作製した。GaAs探針表面は(NH_4)_2Sx溶液によるS終端化処理を施した。先端曲率半径は約50nm以下で,グラファイト表面のSTM観察により原子分解能を実現できた。GaAs探針の表面劣化により表面準位密度が増加した場合,探針へのパルス電圧印加処理により表面層を一部除去し,再生できる方法を開発した。この手法によりGaAs探針を用いた実験の効率をさらに向上させることができた。 (2)スピン偏極STM実験 作製したGaAs探針への光照射状態においても原子分解能のSTM観察が可能であることが分かった。光励起状態ではトンネルコンダクタンスが増大し,光励起伝導電子によるトンネル効果であることを確認した。このことから円偏光励起によるスピン偏極電子源としての応用が十分期待され,Ni薄膜試料を用いたSP-STM実験を試みた。まず磁化したNi薄膜の左右円偏光励起におけるトンネルスペクトルの変化を調べ,負の探針バイアス領域においてスピン偏極信号を得ることができた。また磁化方向の反転によるスピン偏極信号の極性の逆転現象も確認することができた。次に磁化していないNi薄膜表面の異なる位置におけるスピン偏極信号を調べた結果,異なるNi島状構造においてスピンの配向方向が異なり,そのNi島間にはナノメートルサイズの磁壁の存在を示唆する結果が得られた。 今後,スピン偏極信号の定量解析およびイメージング化の検討を進めることにより光励起GaAs探針を用いたSP-STMの実現が大いに期待される。
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