研究概要 |
漏洩弾性表面波は通常のレイリー波に比べて位相速度が速い,電気機械結合係数が大きいなどの特徴を持ち,弾性表面波デバイスの高周波化,広帯域化への利用が注目されている.しかし,漏洩弾性表面波はバルク波を基板内部に放射しながら伝搬するために本質的に伝搬減衰を有している.さらに,励振用電極からもバルク波を放射し,これらのバルク波放射による損失がデバイスの低損失化を困難にしている. 本研究では,基板表面上にプロトン交換層を形成することによって,これらのバルク波放射による損失を格段に抑圧できることを理論的,実験的に示した.具体的には,ニオブ酸リチウム基板上の伝搬減衰,粒子変位分布の交換層厚みに対する変化を計算し,実際にプロトン交換フィルタを作製し,漏洩弾性表面波の伝搬特性を測定した.得られた結果を以下に示す. 1.伝搬減衰の抑圧 プロトン交換によって伝搬減衰の測定値が未処理の試料の1/3となり,レイリー波と同等の約0.01dB/λまで低減することを見出した.これはプロトン交換により基板の異方性が実効的に変化した結果によるものであること,ある基板の方位角では伝搬減衰がゼロとなることを計算により明らかにした. 2.励振用電極から放射されるバルク波の抑圧 励振用電極から放射されるバルク波による損失の測定値が,交換層厚みに対して単調に減少し,ゼロにまで抑圧されることを見出した.未処理の試料の場合,このバルク波放射損失は挿入損失の約半分を占めており,フィルタの低損失化に非常に有効である.この抑圧は,プロトン交換により粒子変位分布が基板表面に集中した結果によるものであることを計算により明らかにした. 今後は,プロトン交換低損失フィルタの最適設計と作製を行うと共に,漏洩弾性表面波の2倍近い音速を持つ"第2漏洩弾性表面波"についてバルク波放射抑圧を検討する.
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