近年、材料の破壊機構や事故解析、また、半導体の製造工程などにおいても材料表面の微細な三次元形状を精確に測定する必要がでてきた。通常の走査電子顕微鏡で得られる画像の濃淡は、材料表面からでる二次電子の個数が、材料表面の組成と電子線の入射角で変わり、さらに、材料表面と検出器との相対的な位置関係の違いで、検出器に入る二次電子の割合が変わるためできる。ここでもし、材料表面の組成と検出器との位置関係が判っていれば、各画素での電子線の入射角、すなわち、材料表面の三次元形状が求まるはずである。そこで、本研究では、このような逆問題を、生物の進化過程を模倣した遺伝的アルゴリズムを用いて解くことを試みた。 任意の三次元形状を遺伝的アルゴリズムにおける染色体とし、これらの染色体を各々持っている個体の集団を扱う。まず、これらの各個体に対し、各画素ごとに生成される二次電子の個数と検出器に入る割合を計算し、濃淡画像を作る。次に、この濃淡画像を実際のSEM画像と比較し、両者がどの程度似ているか評価する。全ての個体を評価し、各個体の評価値に応じて淘汰、増殖させる。最後に、残った個体を交又、突然変異させ、次世代の個体の集団を生成する。これら一連の操作を繰り返し行い、必要とされる精度の三次元形状が得られるまで個体を進化させる。本年度は、本研究で考案したアルゴリズムが正しいことを検証するため、走査電子顕微鏡画像のラインスキャンから二次元の試料断面を再構成するところまでの数値実験を行った。数値実験の結果、走査電子顕微鏡画像の三次元再構成には、試料断面の頂点の座標を並べるコーディング方法にもとづく遺伝的アルゴリズムがもっとも適していることを示した。また、実際の操作電子顕微鏡画像のラインスキャンへ適用した結果は、数値実験の結果と比べると、誤差の少し大きいものとなったが、一枚の画像から三次元再構成ができることを示した。
|