本研究では、C_<60>薄膜およびC_<70>薄膜おける大気中および光照射下での影響を主に電気電導、光ルミネッセンス、一定光電流法、光熱偏向分光法および電子スピン共鳴法によって調べた。得られた結果を要約すると、 1.フラーレン薄膜は酸素のインターカレーションによって、電気伝導、光ルミネッセンス強度が大きく減少する。この現象は、エネルギーギャップ内に酸素が局在準位を作り、それがキャリアに対してトラップ準位として働くためである。また、C_<60>薄膜の場合、この局在準位は非幅射再結合中心として働き、これがサブバンドギャップ吸収として現れる。 2.C_<70>薄膜では、酸素のインターカレーションによってサブバンドギャップ吸収およびア-バックエネルギーが減少する。したがって、酸素は結晶構造の乱れを緩和させると考えられる。 3.酸素がインターカレートされたフラーレン薄膜に光照射するサブバンドギャップ吸収が増加し、光ルミネッセンス強度が減少する。したがって、光照射によって新たに局在準位が形成され、それが非幅射再結合中心として働くと結論づけられる。C_<60>薄膜の場合は、この局在準位の一部は室温において準安定であり、アニール処理によってこの準位は減少しない。 4.酸素がインターカレートされていないフラーレン薄膜に光照射するとサブバンドギャップ吸収が減少し、光ルミネッセンス強度が増加した。酸素がない場合は、光照射によって薄膜内に存在する欠陥が減少する。この現象は、光誘起ポリマーや光誘起酸化とは別の新しい事項である。 以上、得られた結果から特に重要な点は、(1).フラーレン固体を研究する上で、酸素のインターカレーションを考慮する必要性が示唆されたこと、(2).光照射によるフラーレン薄膜への影響の一つとして、光照射による準安定な準位の形成または欠陥の減少を見い出したことである。
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