不可逆磁界が低温超伝導体と高温超伝導体でどのように変わるのかを調べることを主な目的に、今年度はそのための試料作成および簡単な基礎データ計測を行い、次のような知見を得た。 1、理論計算を行う際の基準に考える金属超伝導体のデータについて、塊(バルク)試料におけるピンニング力と不可逆磁界の間にはピンニング力が二桁以上変化しないと不可逆磁界には大きな変化が見られなかった。これは、ピンニング力が弱くなれば、上部臨界磁場も変化するため、この値で不可逆磁界を規格化してしまうためである。計測された磁化曲線に関しては大きな変化が認められた。 2、薄膜試料は蒸着装置を用いて膜厚の異なる試料を作成した。500オングストロームを越えるような比較的厚い試料に関して、その超伝導性(臨界温度、均一性)に問題は無かったが、10オングストローム程度の比較的薄い試料については、特に均一性の問題が残った。すなわち、抵抗の温度計測を行う臨界温度付近でブロードな遷移曲線が観測された。これは、蒸着法の精度の問題であり、CVD膜のような1オングストロームの精度の膜は得にくいものの、実際ピンニング力の影響よりもそれを決定するピンニングポテンシャルが膜厚で制限されることがわかった。このことを裏付ける結果として、多芯線のフィラメント径の違いによって不可逆磁界が変化することからもこの結果が支持される。 来年度は今年度得られた基礎データを基に計算による評価を行い実験値との比較を行う。ただ、薄膜試料の膜厚が比較的薄い試料については、引き続き作成を行う。
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