ダイヤモンド/SiCヘテロエピタキシャル構造を用いた電子放出素子の基礎的な知見を得るため、分子軌道計算により、ダイヤモンド表面に吸着原子が存在する場合の分子軌道を求めた。実際の素子のダイヤモンド表面は何らかの吸着電子が存在していると考えられ、この計算は表面をどのような状態にすればより電子放出が容易になるかを見積もることができるはずである。計算には半経験的およびab initioを併用した。その結果、ダイヤモンドバルク表面と比較した場合、酸素吸着がある場合はいわゆる禁止帯内に多くの界面準位と考えられる軌道が現われた。これは放出電子のトラップとして素子特性に影響を与えると思われる。一方、フッ素が表面に吸着した場合は、禁止帯の中の軌道は酸素吸着の場合に比べ、大きく減少した。この場合は放出電子のトラップが減少するので、より多くの電子放出が可能になると思われる。水素が表面に吸着した場合は禁止帯内には明確な軌道は存在しなかった。これは、水素が吸着した場合、すなわちas-grownの状態がもっとも良好と一見思われるが、実際の製膜直後には漏洩酸素などの影響で、いくらかの酸素吸着は免れ得ず、この酸素をフッ素により置換することで、より適切な表面状態が得られると考えられる。 実際多結晶を用いて、電界放出の実験を行った。水素吸着表面と酸素吸着表面を比較すると、酸素吸着表面の仕事関数は水素吸着表面に比較して大きな値となった。これは、先の計算から予想される結果と定性的に矛盾のない結果である。
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