研究概要 |
ダイヤモンドを用いた電子放出機構の基礎的な知見を得るため、孤立粒子と連続膜からの電子放出特性をF-N plotにより比較した。その結果、孤立粒子と連続膜からでは、算出される仕事関数の値に明らかに違いが見られた。仕事関数は連続膜の場合が小さい。この事は放出機構が異なっていることを示している。連続膜では、電子はバックコンタクトから、ダイヤモンド表面へ、グラファイトや結晶欠陥を含むダイヤモンドの粒界を伝わり、バンドギャップ中の欠陥準位を伝って放出されると考えられ、さらに連続膜の場合はダイヤモンド表面とバックコンタクト間にも電界が印加されるため、実質的にはギャップ中そより点い準位に励起されつつ放出されることになる。擬フェルミ準位は熱平衡状態のフェルミ準位よりも高くなり、したがって仕事関数は小さくなる。一方、孤立粒子の場合は連続膜と異なり、電子はバックコンタクトからダイヤモンド表面へ伝わるのに、バルクではなく水素終端されたことに起因する低抵抗の表面伝導層を伝わる。したがって、電圧降下はほとんど生じず、電子は励起されず、価電子帯近傍から放出されることになる。すなわち擬フェルミ準位は熱平衡状態のフェルミ準位とほとんど変わらないため、仕事関数は連続膜に比べ相対的に大きくなる。 実際の電子放出素子として、表面伝導型と呼ばれる平面構造の素子を試作した。ダイヤモンドが成長した平面に2μm程度のギャップを設け、その間に電子を放出させる構造である。今回試作した素子はダイヤモンドを各種金属上(Au,Ti等)に成長させた。その結果、20V程度の比較的低い電圧から電子放出が観察された。また、放出された電子を蛍光面に引き出すことで蛍光体の発光も確認できた。放出機構としては前述した連続膜からのそれに近いものであった。
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