研究概要 |
本年度の研究において,以下の点を明らかにした. 1.線スペクトル対による全極形モデルの表現法を,極・零モデルの表現に適用し,その性質を調べた.極・零モデルの伝達関数の分子多項式に関しても分母多項式と同様の操作を行い,単位円上に零点をもつ2つの多項式を考えることで,線スペクトル対による表現が可能であった。また,線スペクトル対の性質として,その値からモデルの安定性,最小位相特性の判別は容易に行うことができるが,線スペクトル対の値からキャンセレーションの有無を直接判定をすることは困難であった。 観測信号から線スペクトル対を直接推定する方法を検討した。分析の対象が線形モデルであっても,線スペクトル対でモデルを表現するには非線形関数が必要になる。そこで拡張カルマンフィルタを適用して線スペクトル対を推定することとしたが,拡張カルマンフィルタは,非線形関数をテイラー展開したときの1次の項までで近似するため,近似がうまくいかない場合が考えられる。そこで,実音声データを用いて拡張カルマンフィルタの性能を評価した結果,特に入力信号のパワーが小さくなるような区間では,規範モデルの変化に対する追従性が著しく劣化することがわかった。また,推定された線スペクトル対が交差するように変動し,そのためモデルが不安定になったり,存在しない極端に狭い帯域のピークが推定される場合があった。これらの問題に対しては,線スペクトル対の各時刻での変化量の予測モデルに,過去の変動に依存しない白色成分を導入し,各線スペクトル対の変動の大きさを平均化することで,追従性の改善ができることを実験により明らかにした。
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