研究概要 |
ヒト,サルなどの霊長類における初期視覚では,多重解像度,及び方位選択を基本とする情報処理を行っていると考えられている.これまで,視覚系がこうした処理様式を戦略的に獲得してきたことに対する理由の説明が試みられ,その自己組織化の可能性が検討されてきた.しかし,視覚系が外界からの視覚刺激に依存して自己組織化されるにも関わらず,視覚刺激の確率密度については非正規であること以上に深く追求されることは少なく,また,初期視覚における情報処理様式が画像符号化に応用可能であることはかねてより示唆されてきたものの,具体的に有効な手法としては確立されてはいない.本研究では,まず,自然画像から採取されたブロック画像を受容野に相当する局所的な視覚刺激とみなし,視覚刺激をその方位に基づき分類し,分類された各クラスで視貢刺激をKL変換符号化する場合,方位による選択を行わずに単にKL変換符号化する場合に比べ,視覚刺激の伝送情報量を減少させられることを示した.これは,伝送情報量を減少させるための選択基準として,方位が十分条件になることを主張するものである.次に,視覚刺激をベクトル量子化法によりクラスタリングした後,各クラスごとにKL変換し伝送する符号化モデルを用いて,視覚刺激の伝送情報量を最小化した場合,結果として方位選択系が自己組織化されており,視覚刺激の伝送情報量を最小化するためには方位選択が必要条件になることを示した.更に,こうした自己組織化は,視覚刺激が多次元正規分布の範囲を超えて方向性を持つ成分方向に分布していることが要因となっていることを明らかにした.最後に,本符号化モデルにおいて,KL変換の代わりにDCTを用いた場合においても,等しいひずみを与える条件下で約0.4[bit/pixel]の平均符号長削減が実現されており,実用的な画像符号化法としての利用も可能であることを示した.
|