本研究では、多数のカオス発生回路を結合したネットワークにみられる時空カオス現象を解明するために、さまざまなモデルを設定し、実際に回路実験を行ない、発生する現象についての詳細な解析を行なった。主たる結果は以下の通りである。 1.同期状態の崩壊メカニズムの解明 多数のカオス発生回路の結合系には、一部の回路のみが同期を保つクラスタ化と呼ばれる状態がしばしば観測される。適当なパラメータの下では、このクラスタが現れては消える興味深い現象が発生する。このメカニズムを解明するために、カオス発生回路を2個のみ結合した簡単なシステムに対し、同期崩壊に関する詳細な解析を行なった。その結果、同期崩壊にはLocally Riddled Basinと呼ばれる、同期状態から解を引き離す複雑な引力圏構造が密接に関係していることが明らかとなった。また、この引力圏が不安定周期軌道に関連して発生することも確認された。 2.カオス回路ネットワークの位相パターンの判定回路の設計 多数のカオス発生回路を結合したネットワークを実験を通して研究する場合、発生する現象をいかに正確に把握できるかが重要となる。本研究では、位相のずれによって生じる位相パターンの不規則な移り変わりを調べる必要があるが、多数の信号の位相状態の変化を同時に測定することは、極めて困難であった。そこで、抵抗で格子状に結合したカオス回路ネットワークに発生する位相パターンをディジタル信号に変換する簡単な判定回路を設計し、その有効性を確認した。この判定回路の出力をパソコンなどで処理することにより、統計量の解析が簡単にできることになる。
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