研究概要 |
進化型計算とは,生物の進化過程に着想を得た探索・学習・最適化手法における計算論的枠組みの総称である.進化型計算は汎用性,柔軟性,拡張性などにすぐれ,たとえば,関数最適化問題においては,パラメータのチューニングのみならず,関数自体の構造を多様な遺伝演算子によって直接操作することにより,その構造を最適化することさえできる.本研究では,進化型計算を用いて自律行動ロボットのプログラムを自動生成することにより,進化型計算の特性を客観的に評価すると共に,効果的な進化型計算の利用方法を示している.ただし,本研究所で得られた進化型計算についての多くのテクニックや評価方法は,自律行動ロボットのプログラミングに限られたものではなく,巡回セールスマン問題など,工学的に意味のある一般的な最適化問題に対しても広く応用可能なものである. (1)ロボットのプログラム:Kozaの遺伝子的プログラミングなど,進化型計算を利用してプログラムを自動生成するための従来の手法では,汎用的なプログラムの自動生成を目的とし,プログラムの構造が適用可能な遺伝演算子によって決められていた.本研究では,包摂アーキテクチャなど,実際の自律行動ロボットのプログラムが有限状態機械で記述されていることに着目し,対象とするプログラムの構造を有限状態機械として,新たな遺伝演算子を提案した. (2)進化モデル:進化型計算が模倣する生物進化のモデルとしては,個体の適応度と遺伝形質の関係の違いによってダ-ウィン型,ラマルク型,これらの中間に位置するボールドウィン型などに大別される.本研究では,ダ-ウィン型の進化モデルに,ラマルク的確率に基づく突然変異を取り入れることにより,進化速度を高めると共に,より優れた個体が得られる進化型計算法を提案した.たとえば,自律行動ロボットのプログラミングでは,各個体(プログラム)のエミュレーションによる評価を通じて,その個体の優劣(適応度)のみならず,プログラムの挙動に関する様々な情報を得ることが可能であるため,これらの情報をラマルク的な遺伝演算子において活用する. (3)進化型計算の評価:進化型計算自体の評価においては,集団内(探索空間)における個体の挙動を把握することが必要となる.これまでは,エピスタシス分散,スキーマ統計,エントロピーなどに基づく間接的な手法によって個体集団の挙動が評価されてきた.本研究では,解空間と探索空間に対して適切な距離関数を導入することにより,進化の各過程における個体集団の動的な挙動を直接評価する手法を提案した.
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