研究概要 |
本研究においては,さまざまな最適化問題に対して,効果的な進化型計算の構築法を提案するとともに,その有効性について計算機実験による多角的な評価を行った。また,個体間の構造的な距離を導入することにより,進化型計算の挙動を定量的に評価するための解析手法を提案した。提案した手法によれば,進化の過程における個体集団の多様性や交叉における形質遺伝性を,問題固有の解空間の観点から直観的に理解することが容易となり,進化型計算の挙動解析のみならず,理論的な発展にも寄与できるものと期待される。本年度は,昨年度からの自立行動ロボットに関する研究に加えて,NP困難な組合せ最適化問題の実質的なベンチマーク・テストである巡回セールスマン問題に対して,効果的な遺伝的アルゴリズムの構築を提案するとともに,個体間の距離に基づく挙動の解析を行った。 (1) ロボットプログラムの自動生成:包摂アーキテクチャなど実際の自立行動ロボットのプログラムが,有限状態機械として記述されていることに着目して,進化型計算による有限状態機械の自動生成を試みた。特に,進化型計算の効率化においては,ラマルク進化論の概念を遺伝演算子に導入することにより,個体集団の進化速度を向上させるとともに,最終的に得られる個体の性能を高めることに成功した。昨年度は,有限状態機械に対するラマルク的な突然変異を提案したが,本年度は,新たに有限状態機械のラマルク的な交叉法を考案して,進化型計算による有限状態機械の自動生成手法を完成させた。 (2) 巡回セールスマン問題における遺伝的アルゴリズムの挙動解析:完全グラフ上のハミルトン閉路を個体と見なし,個体間に構造的な距離を定義することにより,巡回セールスマン問題対する遺伝的アルゴリズムの挙動を定量的に評価するための解析手法を提案した。さらに,順序問題に対する従来の交叉法において,個体間の距離を利用する調和交叉法を提案した。調和交叉法によれば,新たに得られる子の個体が解空間において常に両親の中間に位置するため,従来の交叉に比べて局所的探索能力が向上するとともに,交叉における形質遺伝性が個体間の距離に基づき定量的に保証されることを証明した。
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