研究概要 |
動物の神経系では,複雑な振動現象が頻繁に観測されている.本研究では,この現象が神経系における情報処理とどのような関係があるかを単純な数理モデルを用いることによって解明することを目的とした.また,振動現象を用いることが情報処理にとって有利な点をモデルにおいて定量的に明らかにし,パターン認識への工学的応用を目指した.更には,系の非線形性を十分強くした状態で観測され得る複雑なカオス的振動を情報処理磯能として捉え,新しい機能を有するパターン認識・学習システムを構築することを試みた. ここで用いた結合円写像系(Coupled Circle Maps)は,非線形性が強い領域での振動子集団の力学を最も簡単に記述できるモデルの一つである.ここでは結合円写像系が持ち得る機能を明らかにするという立場を取り,更には,電子回路や物理化学系による実現を目指した. 多くの振動系は円写像でそのダイナミクスを表現できる.脂質DOPHを用いた液膜系は興奮性を有し,一種の神経細胞膜モデルとみなすことができる.この膜を,ある大きさ以上の濃度勾配下におき,圧力と交流電流を印加すると同期現象やカオス的振舞が観測された.適切な方法によって,これら振動的挙動を円写像ダイナミクスに投影することができた.本研究では,この円写像ダイナミクスがパターン認識システムのための前処理装置として有効に働くことが示された.
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