本研究は、リドルドベイスンおよびカオスの制御手法を連想記憶などのニューラルネットワーク情報処理システムの高機能化に利用することを目的として、2年計画で遂行している。平成9年度は、リドルドベイスンの制御手法の基礎的検討と、連想記憶システムの疑似記憶解消手法の提案を主目的として研究を行ない、以下に要約するような成果を得た。 (1)リドルドベイスンの制御の基本となるカオス制御(カオスアトラクタに含まれる不安定周期軌道を安定化させる手法)の調査・検討を行った。種々のカオス制御手法のうち、最も簡便で有効な手法である遅延フィードバック制御法(Delayed Feedback Control;以下、DFCと略す)に着目し、その安定性を数理的に考察した。その結果、「実かつ1を超える特性乗数を奇数個もつ周期軌道は安定化できない」という制約がDFC法に伴うことを証明し、さらに、この制約は過去に提案されているDFCの改良法では解消不可能であることも指摘した。この結果をふまえ、ある種の対称性をもったシステムに適用可能な「半周期遅延フィードバック法」を提案し、上記制約を部分的にではあるが解消できることを示した。 (2)リドルドベイスンのファットフラクタル性を定量化する指標として、ファットネス指数とキャンセレーション指数の二つを取り上げ、その数値計算手法を確立した。 (3)リドルドベイスンの制御による連想記憶システムの疑似記憶を解消する手法の原理実験として、二つの極小点を持つ相互結合ニューラルネットワーク力学系において、局所最小点(疑似記憶に相当)をカオス化し、さらにそれを制御する数値シミュレーションを行ない、すべての軌道を大域最小点に収束させうることを確認した。
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